この記事では「夢と希望に溢れたベンチャー企業」が「やりがい搾取のブラック企業」になるまでのリアルな過程をご紹介します。
最初に断っておきたいのは「誰にも悪意はなかった」ということです。経営者も含めて、みんなが懸命に自分の役割をこなしました。しかし、、、結果的に色々なボタンの掛け違いで、「なぜ、こんなことに、、、」という状況になってしまいました。。
私は、この企業の立ち上げ期から中核メンバーとして働いていていました。なので「ブラック企業で働いてココがヤバかったです。」的な、被害報告ではなく、私自身もブラックな環境を作る要因になってしまった失敗談(懺悔)です。
同じような状況にある方のお役にたてば嬉しいですし、純粋にドキュメンタリー/エンタメとして楽しんで頂けるともっと嬉しいです。※身バレ防止の為に、一部脚色をしてますが、ほぼ真実です。
舞台となる「ベンチャー企業」の事業内容
まず舞台となるのは「法人向けのITサービス」の開発/販売/サポートをする企業です。よく言われるITベンチャー企業です。
代表的な「法人向けITサービスのベンチャー企業」といえば、労務管理システムのSmartHR、名刺管理システムのSanSan、会計管理システムのマネーフォワードなどが有名です。そういった、キラキラのベンチャー企業への成長を夢見つつ、事業を立ち上げました。
まず立ち上げ時のメンバー構成は、事業全体の責任者(経営者)、セールス=私、カスタマーサポートの3名体制でした。(開発側のメンバーは別にいます。)
この企業を舞台に「初期→拡大期→暗黒期」の3段階で紹介していきます。
初期:夢と希望に満ちた、事業の立ち上げ
2010年代中盤頃は、クラウド/AI/DXなど、現在にも続くようなIT投資を強化する市場的な流れが始まっていました。そこで、私たちは先進的な取組みを行う企業様をターゲットにしたことで、導入企業を着実に拡大していくことができました。
しかし、ありがたいことに「新規顧客からの引き合いが急激に増える」「既存ユーザーも増えたことで導入支援の対応工数も増える」という状況になりました。
3名しかいない状況だったので、物理的なリソースが圧倒的に不足しており、毎日寝る間を惜しんで働いてギリギリ対応しているような状態でした。
- 確実に事業が大きくなっていってる
- 上場という目標に向かって進んでいっている
- そこに自分の働きが貢献している感覚
があったので、ハードワークながらも精神的には「ツラい」とは全く思いませんでした。逆に充実感すら感じていました。会社にいた全員が共通の思いを持ってたと思います。
とはいえ、物理的に対応しきれないので、積極的に人を増やすことにしました。ここからが「終わりの始まり」です。。
拡大期:終わりの始まり
教育に時間をかけている余裕はなかったので「IT業界のビジネスに精通して、完全自立で動ける猛者」を迎え入れようと考えていました。ただ、実績の少ない駆け出しベンチャーでは、そういった理想的な人材をすぐに採用することはできませんでした。
しかし、人員の補強は急務だったので、20代中盤のポテンシャルの高そうな方を採用して育成をしていく方針に切り替えました。
若手のメンバーが増えたことで社内も活気がでました。私を含めて、元からいた社員のミッションは「自分自身もプレイヤーとしてこれまで通りに数字をあげつつ、若手のメンバーを教育して一人前にする」ことでした。よくあるプレイングマネージャーです。
育成方針と失敗
私自身もプレイヤーとして動くので、教育にしっかりと時間を使う余裕はありませんでした。なので基礎的な提案方法を説明して、「あとは現場で学んで!!困ったことがあったらフォローするので、言ってね!!」という方法をとりました。
ベンチャー企業に来るチャレンジ精神があるメンバー達なので、権限移譲して自主性にドンドン任せよう!!
↑結論、この方法で大失敗しました。
どのような経過を辿ったのかというと、基本的な提案の流れは同じようにやっているはずなのに、受注率が大幅に下がっていきました。
なぜ?経験不足?知識不足? ⇒ だったら慣れれば大丈夫かな??
なんて思っていましたが、一向に数字は上がってきませんでした。これは、おかしい。。と思いどんな営業活動をしているか、張り付いて見てみることにしました。
そこで気づいたのは「サービス紹介をしているだけ」ということです。営業マンには「なぜサービスが必要なのか?どんなメリットがあるのか?」をお客様の状況に合わせて提案をすることが求められます。それが全くできてませんでした。。。
基礎中の基礎だろ。。もっと自発的に考えて動いてくれよ。。
↑当時の未熟な私は、他責思考でそんなことを思ってました。(恥ずかしい。。)
完全に私のマネジメント力不足です。つまり方法(How)だけ教えて、理由/目的(Why)を正しく伝えられなかったので「ロボットみたいにサービス紹介するだけ」になってしまっていました。
ということで、数字もあがっていない、メンバー達も成長してないという悲惨な状況になりました。
会社全体の状況
ここまで紹介したのは、セールスチーム視点での課題ですが、サポートチームも同じく人材の育成に苦戦しており、似たような状況でした。
また開発側も大きな問題を抱えており、サービスの機能強化が長らく行われませんでした。結果的に競合サービスに機能的に劣る状況になっていきました。
つまり人材/製品、ともに競争力を失ったことで、売上が伸びなくなっていました。ないないづくしの状況を打破するために、大幅な方針の転換が必要となりました。
暗黒期:チーム崩壊、、ブラック企業誕生!
現状を打破するための対策として、会社全体でマイクロマネジメントを実施することになりました。結果がでていないのは、上司の責任。なので、私は各メンバーに対して、経営者は私に対して、組織ピラミッドのなかで細かな指示を徹底することにしました。
マイクロマネジメント自体は、的確な指示ができるのであれば結果がコントロールしやすい、部下も無駄なく動けるので働きやすい!というメリットもあります。
スケジュール管理/報告の徹底など基礎的なことだけでなく、細かい営業手法、一挙手一投足にいたるまで、細かな指示を出していました。(ウザいですよね。笑)
ただ、時間の経過に伴って、悪影響がでてきます。それは指示される側が「自分で考えることを放棄してしまうようになる。」ということです。つまり自主性/主体性が失われていきます。
マイクロマネジメントの本質は、人を信用しないことです。個人として信用されず、言われたことをやるだけ。個人としての存在意義がわからなくなります。それは非常に強いストレスを生みます。
そしてメンバーが辞めては採用して、辞めては採用してを繰り返すようになっていきました。。
今回もいい人が入ってくれなかったな。次回はもっと細かくしっかり指示しよう。
↑当時の私は、他の創業メンバー達とこんな話をしてました。他責思考+間違った施策いう手のつけられない愚行を繰り返していました。
私自身も思考を失って半分ロボット化していましたが、必死に自我があることを証明しようとしていたのだと思います。ブラック企業によくいる、なぜ頑張ってるのか不明な管理職はこうして誕生します。哀れですね。。
そんな状態の、泥沼の戦いを数年に渡って続けていましたが、ある日私にも限界が訪れました。いつものように休日に仕事をしようとパソコンを開いたのですが、手が動かなくなりました。
プルプル震えてマジでタイピングができない状態になりました。え??なにこれ??どういうこと???と理解ができませんでしたが、「あー、コレが限界だ。」となり、あえなく私も戦線離脱することになりました。※このあとの私の話は「自己紹介」で書いてますので、よろしければご覧ください。
というわけで、夢と希望に溢れていたベンチャー企業が、ブラック企業に生まれ変わるまでをご紹介させて頂きました。
やり直せるなら、どうやってブラック企業化を回避するか?
ココまで「ブラック企業」という言葉をたくさん使いましたが、「働くこと」に対して、何を求めるかは人次第です。会社に求めるものとしては、以下の2つに分けられると思います。
- 働きやすさ:業務量、ワークライフバランス、人間関係、、
- 働きがい:強みが活かせる、金銭、成長実感、社会的意義、、
私の例で言えば、「働きやすさ」よりも「働きがい」を重視していたので、「初期段階」はハードワークではありましたが、強みが活かせる、成長実感、社会的意義、などが満たされてたので、不満はない状態でした。
しかし「暗黒期」はマイクロマネジメントの結果、やらされている感が強くなったことで、「働きがい」がなくなりストレスを感じるようになりました。何がいいたいかと言うと、ハードワーク=ブラック企業ではないということです。
ではブラック企業とはなにか?というと「心理的安全性が低い組織」だと思います。
心理的安全性が高いとは「メンバーひとりひとりが安心して、自分が自分らしくそのチームで働ける」状態です。逆に低いと「言いたいことも言えない、指示に従うだけ、人間としての尊厳がないと感じる」状態です。
ビジネス(特にベンチャー企業)は甘くないですし、歯を食いしばって頑張らないといけない時期もあります。ただ、そんな時に頑張れるのは「自分はココにいる意味がある」「周囲に貢献できている」と思える環境があるからこそだと思います。
なので仮にやり直せるならば、世界最高のチームという本などを参考に「心理的安全性」をあげるための施策に全力で取り組みたいと思います。
まとめ:失敗から学べば、何度でもやり直せる
「ブラック企業ができるまで」をできるだけリアルに紹介させて頂きました。もちろん、実際にはもっと色々なことが起こってますし、私の視点からなので、多少の偏りはあると思いますが。
私自身は、この時期のことを後悔はしてません。過去は変えられないですし、こんな経験をしたからこそ「失敗したっていい。人は何度でもやり直すことができる。」と心の底から思っています。
そして頑張りすぎで疲れている方を「少し休んで、また立ち上がれば、それはただの失敗ではなく貴重な経験になっていますよー。」と応援したいです。
この記事が、同じような悲しい結果に向かう企業/職場が一つでも減らすことの役に立てば、本当に嬉しいです。自分の経験が誰かのお役に立っているということなので。
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